「シュガー・ラッシュ:オンライン」を観た感想
ディズニーらしからぬディズニー映画でした。
タイトルこそ「シュガー・ラッシュ」ですが、シュガー・ラッシュは導入に過ぎず「オンライン」の方に重きをおいたインターネットあるある満載の映画となっています。
あらすじ
リアル世界のシュガー・ラッシュのハンドルが壊れてしまい、シュガー・ラッシュがなくなってしまう危機が訪れます。
そんなとき、インターネットで壊れたハンドルのスペアパーツが手に入ると知ったラルフとヴァネロペはハンドルを手に入れるためにインターネットの世界へ旅立ちます。
ところがハンドルを手に入れるためには24時間以内にたくさんのリアルマネーを払わなくてはいけなくなります。
二人は無事にハンドルを手に入れてシュガーラッシュの危機を救うことができるのでしょうか?
以下、ネタバレを含みますのでご注意を。
見たことのある名前に思わずフフッとなる
今回の舞台はインターネット。
シュガー・ラッシュはインターネットの世界へ旅立つためのきっかけに過ぎず、ほとんど出てきません。
逆にネットの世界のサービスであるeBayが重要な位置づけで登場します。
その他にもネットの世界ではおなじみのサービスのロゴが多く登場し、AmazonやGoogleのビルがあり、YouTubeやFacebook、楽天も出てくるし、TwitterでTweetされたり、Gmailが送られる描写もあります。
日本ではあまり馴染みのないPintarestや微博も出てきました。
他にもたくさんのサービスのロゴが出てきましたが、覚えているのはこれくらいでしょうか…言われれば、あー、あったわ!って感じだと思います。
インターネットのサービスを多く知っていると、世界観だけでも十分楽しめます。
ソニックの出番がわりとあったのが印象的でした。
インターネットの世界
ラルフとヴァネロペがwifi(有線接続感が半端ないですが)を使ってネットの世界へ飛び出すときに、IPアドレスが出てきたり、透明な乗り物(たぶんパケット?)に詰められて送り出されたりするのも、少し技術方面に詳しい人なら面白く感じると思います。
また、ネットの世界に到着した瞬間の一気に世界が広がる感じも共感できます。インターネットがなかった頃を私が経験しているからかもしれませんが…
インターネットの裏側も表現されていて、歩いていると多くのポップアップ広告が割り込んできたり、アングラな世界でRMT(リアルマネートレード)が行われていたり、脆弱性を見つけて増殖するウィルス(正確にはワームでしょうか)が出てきます。
ラルフとヴァネロペも最初はRMTでお金を稼ごうとしますが、うまく行かずにYoutuber(映画の中ではBuzzTubeというサービス)としてお金を稼ぎ始めます。
この配信者として稼ぐというところの裏側も描かれていて、動画のコメント欄の心無い一言でラルフが傷つくシーンがあります。すげーわかる…
知識の有無はストーリーとも絡んできます。
冒頭のハンドルをeBayで購入するっていうのも、eBayを知っているかオークションサイトについて知っていないとわかりにくいでしょう。
スローターレース崩壊でヴァネロペはコードにないから消滅するという概念はさらにわかりにくいし、検索のサジェストに関する部分もわかっていないと面白さが伝わらないでしょう。
ネットのサービスにどっぷりと浸かっていればいるほど、この作品のちょっとしたシーンにも共感できるし、あるあるネタがわかる面白さもあります。
子ども向けと思わせたオッサン向け作品
今まで書いてきた流れでわかると思いますが、本当に楽しめるのは子供じゃなくてオッサンです。(オッサンと書くと男性限定みたいですが、そういう年代のそういう方面に詳しい人全般という意味で捉えてください)
無限に広がるネットの世界をみて驚くラルフとヴァネロペに共感できるのは私も含めてオッサンだけでしょう。今の子どもにとってネットは物心ついたときからそこにあるものですから、感じ方が全く異なると思います。
作中で出てくるスローターレースも恐らくGTAを意識したもので、説明もあまりなく世界観が想像しにくいでしょう。
ただ、ディズニープリンセスが絡むシーン全ては子どもでも笑えるシーンになっていると思います…が、少し皮肉っぽいネタもあるので、ここもディズニーだけどディズニーっぽくないなぁと感じるところではあります。
駆け足の展開
世界観については文句なしで楽しめるのですが、ストーリー展開がかなり早く、登場人物の背景もわからず(このあたりもネットっぽい)、ネット/デジタルな世界背景の複雑さも相まって少々置いてけぼり感があります。
ネットの移り変わりの速さを表しているのかもしれませんが、テンポが良すぎて追いかける先からどんどん進んでいってしまいます。
バックグラウンドの説明がほとんどないからだと思いますが、ネットに関してわずかながらもわかった風な私が見てもこう感じるので、詳しくない人が見たらかなり理解不能な流れがあるんじゃないでしょうか。(先のコードにないから再起動したら消滅するとか)
動画配信で稼ぐとか、ワームに感染してエライことになるとか、大筋の部分はイメージできそうですけども。
余談ですが、ラルフが深く考えずにワームを放ってしまうのは、知識のないおじさんがネットでコロッと騙されるということを揶揄しているように見えて、海外も日本もそこはあんま変わらないんだなぁと感じました。
異なる価値観
次第にラルフとヴァネロペは自分の本当にやりたいこと、居場所に向けて動き始めます。話の途中から二人の目的は異なっていきます。
残りたいヴァネロペと戻りたいラルフ。
その違いが大きな出来事へとつながっていくわけですが、若者vs老人のステレオタイプな展開です。
ここで老人側が老害となり巨大なスケールで牙をむきます。
最後には若者の価値観を認めるところに落ち着くのですが、仲良く二人で元通りとならないのは今の時代に合わせたものなのかもしれません。えぇっと、多様性?ダイバーシティ?みんなちがって、みんないいみたいな。
離れていてもズッ友だよみたいな終わり方も、ネットにより距離を感じにくくなっているということを表現しているのでしょう。いつでも繋がっていますからね。
納得感のないストーリー
前作でもそうだったのですが、見終わったあとにスッキリしません。
これってそもそもラルフとヴァネロペが原因を作って、周囲に多大なるご迷惑をかけつつ最後は解決してメデタシメデタシ、ちゃんちゃん!という感じで、お前ら笑ってるけど全部自業自得じゃねーか!と思ってしまいます。
自分の撒いた種を自分で刈り取るという意味ではきちんと完結しているんですが、元をたどっていくとラルフとヴァネロペが全部悪くね?となっちゃうんです。
ハンドルが壊れたのも、eBayに払う大金が必要になったのも、スローターレースが崩壊したのも、ネット世界が壊れかけたのもみんな二人が原因。
お話だからそうしなきゃいけないのはわかるんです、わかるんですが、ぶっ飛びすぎていて理解を超える…お前らアホすぎやしないか?
前作もそうですが、新しい挑戦に失敗はつきもので人は誰しも失敗をするもの。だけどそれを乗り越えてより大きく強くなれるみたいなバックボーンがあるんですよね。困ったときには仲間が助けてくれる的なところもあります。
それは構わないのですが、シュガー・ラッシュの場合は身勝手な挑戦で周りを巻き込む迷惑な奴らという印象が強すぎます。このあたりもディズニーっぽくないなぁと思う理由です。
自由と開放
シュガー・ラッシュ:オンラインの大きなテーマは自由とか開放だと思うんです。
現実にゲームのメインストリームが2次元から3次元へと移り変わり制限が少なくなっていったように、ヴァネロペも自由で束縛のない新しい世界へと進みます。
2次元のシュガー・ラッシュの世界でいつも決められたコースを走ることに不満のあるヴァネロペ。
スローターレースという3次元オープンワールドで自由に走り回れる世界に魅了され、そこへ残る選択をするのは、退屈な繰り返される毎日、2次元の束縛からの開放です。
最後にヴァネロペは元の世界に戻そうとするラルフから逃れネットの世界に残り、束縛から開放されて自由を得ます。
そういえばディズニープリンセスたちもボヤいてましたっけ。
この作品では少々自由が強調されすぎている気がしますが、自由ってすばらしい。
残る疑問
スローターレースの世界からみんな逃げ出してたけど、あれってほとんどのキャラは逃げ出さなくても良いんじゃないの?
だってシステムが再起動しても、コードにあれば復活するんでしょ?
崩壊する世界から逃げ出したくなるのは心理としてはわかるんだけど、シャンクは自分で復活するって言ってなかったかなぁ…
総評
ストーリーはあまり好きになれませんが、見終わったあとにふと考えさせられて、面白かったなぁと思える作品でした。